*管理人*

ぱくお

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カエル林檎

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*Resident of the land of dreams*

 私はカルアくんとモランゴくんに手を引かれながら扉の中へと入り、先へ先へと進んで行きました。先程から不思議な事の繰り返しですが、今歩いている道もとてもおかしな空間です。まるで不思議の国のアリスの世界の様に歪んで見えますが、真っ直ぐにしか進めないのも目に見てとれるのです。私は辺りを見回しながら2人に声をかけました。

「カルアくんモランゴくん。このヘンテコな道、あとどれくらい歩くのかしら?」

 実はもうかなり歩いただろうと思える距離を進んでいました。暗闇の世界でさ迷った事もあり、そろそろ疲れも出てくる頃です。

「そうだなぁ・・・あともう少しってところかな。」カルアは頑張れ!とガッツポーズをしながら言いました。

 あともう少し、もう少ししたらこの世界は一転してどうなるのでしょう。逆さまの世界? 鏡張り? 今度は私自身が歪んで見えてしまうのかしら?私は考えてしまいます。

と、そうこうしているうちに2人は立ち止まりました。目の前にはまたひとつの扉があります。先程よりは小さく、ごく普通な扉です。ここを開けると今度こそ、私の進むべき世界なのでしょう。

「扉を開ける前にマリアちゃんに一つ、大切な事を教えてあげる。」

 私は、大切な事?と首をかしげると、モランゴくんは頷きました。

 

『Du bist ein Stück dieser Welt.』

 

「頑張ってね、マリアちゃん。」

 そう微笑むともうあとは自分が扉を開けるだけと、2人は一歩引いたのでした。私は言われた言葉の意味を理解することが出来ませんでしたが、「いずれわかるよ」というカルアくんの呟きを聞き、特には詮索しないことにします。

 私は両手で扉の取手を握り締めると、その扉をゆっくりと、ゆっくりと開いたのでした。

 

  ☆★☆

 

 涼しくも暖かい風が吹いています。草木のにおいが風に乗って飛んでくるのを私は大きく吸い込んで、また吐き出しました。

 とても心地の良い森の中に立っていました。何故か恐怖、というものを感じずにいるのが逆に恐怖に思えます。きっと熊や狼が出てもおかしくはない場所にいますが、目の前にいる“彼”が「心配いらない」と伝えてくれているのです。何故なら彼は、周りに動物達を引き連れ眠っていたからです。私は声をかけるかかけないか、5分も考えていないと思いますが、その間にも動物は増えていったのでした。うさぎにリス、鹿に小鳥、まるでおとぎ話のようです。

 と、その時私は近くに積んであった本を倒してしまったのです。ドサドサとドミノが倒れた後のように崩れ落ち、そのうち一冊が彼の足にぶつかります。

「・・・・・・・・・ん。」

 彼は眠そうに少しだけ目を開くと、膝の上で眠っていたうさぎを撫でたのでした。

「あ、れ・・・・・・誰・・・?」

 目を擦りながら上を見上げると、私と目が合います。バッチリ合ってしまいました。

「あ、えっと、はじめまして。私マリアです。」

「マリア・・・?」

「いろいろあって森の中に来てしまったのだけれど、どうやら迷子みたいで・・・。」

 さて迷子というのは当たっていますが、森の中に来る程の迷子とは酷い方向音痴だと思われてしまいそうです。

「そっか・・・なら街まで案内するよ。来て。」

 彼は私を怪しむことなく言いました。そして立ち上がろうとしていますがどうしたものか、自力で立ち上がれないのか動物達に助けてもらっていました。やはりおとぎ話かもしれません。

「あ、僕の名前言い忘れてた。僕はシラユキ。よろしくね。」

 絶対おとぎ話の世界で間違いないようです。先程の双子も有名な作品をモチーフにした格好であったため、確信してしまいます。ですが男の子が白雪?どういうことでしょうか。兎にも角にも、私はシラユキくんに着いていくのでした。

 

 

 少し歩くと小さな家がありました。小さな家はあまり目立たないよう、地味に佇んでいます。シラユキくんは「少し待ってて」と言うと、中へと入っていきました。入っていくということは、シラユキくんが住んでいるのでしょう。私は庭になっている花壇を前に待つことにしました。花壇には小さな花達が咲いており、丁寧に育てられていることがわかります。

「マリアちゃんお待たせ。」

 シラユキくんはマントを羽織り出てきました。布地もふかふかして気持ち良さそうです。

そんなことを思っていると、

「誰だ? ソイツ」

 と男性の声が聞こえてきました。こんな森の中にこんな何人も人がいるのでしょうか。私はキョロキョロしてしまいます。

「あぁ、シェルディ帰ってきたの。別に帰って来なくていいのに・・・」

「相変わらず酷い言われようだな。」

 シェルディと呼ばれた彼は苦笑いをするのでした。そして私を見ると、誰なのか問いました。一応は濁しつつも事情を説明すると彼はすぐに納得してくれたようです。私は優しい人達に恵まれた気がします。

 ところで少々気になる事があり、シェルディくんに聞いてみる事にしました。

「シェルディくん、初対面で言うのも失礼かと思ったのですが、・・・その、耳と尻尾・・・。」

 そう、彼は人間ではありますが動物の耳と尻尾が生えていました。

「あぁ、えっと・・・これか・・・やべ、今日街に出ないからって、そのままだったな・・・。」

 シェルディくんは少し慌てた様子で言いました。

「お前、この耳と尻尾見ても何も思わないのか?」

「え?」

 何か理由がありそうなことはわかりましたが、それほど深刻な事情なのでしょうか。私は何も思わないと首を振りました。

「そっか、なら良かった。コレ、世の中では“普通”じゃないんだと。俺にとっては普通なのにな。だから普段は頭巾で隠してるんだよ。」

 赤はかっこいいから! と言うその姿は無邪気な少年のようでしたが、それを隠して過ごすのはとても大変なことなんだろうなと感じました。この世界にも、普通と呼ばれるものと、普通と呼ばれないものがある。来て早々学んだ気がします。何か力になれれば良いのですが。

「と、街へ行くんだったよな。俺も行くよ!」

 シェルディくんは元気よく言いました。私は賑やかになって楽しそうだと感じたのですが、シラユキくんは「えぇ・・・」とそれを全否定する表情をしたのでした。

「なんでだよー!俺も行ってもいいだろ!なっ、マリア!」

 シェルディくんは私に行く許可をくれと言わんばかりの目で訴えてきました。勿論はいと答えると、シラユキくんは無言で歩き始めたのでした。

「シラユキくんもオッケーって事で大丈夫ですか?」

 隣にいるシェルディくんに聞きます。

「前からあぁいうヤツなんだ。大丈夫だよ。」

 また、苦笑いをすると赤頭巾をしっかりと被るのでした。その姿はまるで赤ずきんだったため、彼の耳と尻尾は狼のものなのではないかと感じたのです。

 私達は街へ行く為、森の中を進み始めました。シラユキくんの歩くスピードがカメさんの様にゆっくりなので、置いていかないようにとその後をシェルディくんと付いて行ったのでした。森は道がなく、彼らがいなかったら本当に出られないような足場の悪いところを進んで行きます。ある程度進むと道だとはっきりわかるようになりましたが、それだけ奥深くに家があることを街に住む人達は誰も知らないのでは?とも感じます。私自身、森の中に来なかったら永遠に知ることがなかったかもしれません。

「いつも歩いているとはいえ、やっぱり遠いな・・・。」

 隣でシェルディくんは汗を拭いながら言いました。

「こればかりは仕方ないね。僕もこんなに歩くのは嫌だけど、街に住めないんだから。」

 シラユキくんは表情を一切変えずに言います。白雪姫のお話だと継母から逃げて森で暮らしますが、それと同じなのでしょうか。先程出会ったばかりで詳しい話を聞くというのは、これ以上は良くないと思い聞き流すことにしました。

「建物が見えてきた・・・。もう少しだよマリアちゃん。」

 思えば双子に出会ってから歩いてばかりでしたが、いつしか疲れも忘れて楽しくなってきていたことに気づきました。それもそのはず、初めて起こることばかりなのに楽しめないはずがないのです。

「わぁ、素敵な建物が沢山ありそう・・・。街は広いんですか?何だかとっても楽しみ。」

「ん?広すぎるって程でもないけど、小さくもなくてちょうど良い街。かな?僕達は慣れてるからあまりわからないけれど・・・」

「あ、屋敷はかなりでかいぞ。」

 シェルディくんは思いついたように言いました。お屋敷、お城、女の子が大好きなもののひとつですね。少なくとも私は大好きです。

「そういえば、ただの迷子だと思っていたけど・・・君、街に住んでる子じゃないの?」

 シラユキくんは少し顔をしかめながら言いました。

「あ、えっと・・・実は・・・。」

 暗闇から来ましたなんて言えないので先程も濁したのですが、どう説明しましょう。口をもごもごさせていると、「別に何でもいいけど。」とシラユキくんは前を向いたのでした。シェルディくんは不思議そうに私を見ていましたが、どう考えても信じてもらえそうにないのでまだ秘密です。

 と、私達は街に着いたようです。森から来たので街の裏、と呼ばれる所に立っています。

「すごい!可愛らしいお家がいっぱい!」

 私は目の前に見えている景色を今まで見た事がありませんでした。お店屋さんも沢山並んでおり、賑わいを見せていました。

「マリアちゃんが本当にここの街の人じゃないって考えるとどこの人なんだろう・・・。」

「俺にはさっぱりわかんねぇな~他の街はかなり遠いし・・・。とりあえずイバラに聞いてみたらいいんじゃねぇか?」

 2人は話し合います。私がこれから何をすべきなのか、そもそも何処で衣食住をしたら良いのかもわかりません。カルアくんもモランゴくんもいなくてはさっぱりです。私は行く宛もないので、そのイバラさんという人に会いに行くことになりました。